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デジタル教科書の導入と使い方

デジタル教科書という言葉が出たのは、2005年の光村図書出版からと言われています。それより前には2002年に東京書籍がデジタル掛図という教科書の抜粋版を出していました。いずれも先生が使うことを想定しており、現在の「指導者用デジタル教科書」です。教科書(紙の教科書)は、基本的には4年に1度改訂されますが、学習指導要領の改訂がある時には5年にずれ込む事もあります。この改訂に合わせてデジタル教科書も改訂され大きく進歩してきました。2015年には国語、算数、理科、社会ばかりでなく、音楽、図工、保健体育等多くの教科が出てきました。次回の教科書改訂は小学校が2020年、中学校が2021年、高校が2022年です。この2020年からの指導要領の改訂は非常に大きな改訂であり、知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」と言われています。

2019年7月22日

デジタル教科書の種類


 デジタル教科書という言葉が出たのは、2005年の光村図書出版からと言われています。それより前には2002年に東京書籍がデジタル掛図という教科書の抜粋版を出していました。いずれも先生が使うことを想定しており、現在の「指導者用デジタル教科書」です。教科書(紙の教科書)は、基本的には4年に1度改訂されますが、学習指導要領の改訂がある時には5年にずれ込む事もあります。この改訂に合わせてデジタル教科書も改訂され大きく進歩してきました。2015年には国語、算数、理科、社会ばかりでなく、音楽、図工、保健体育等多くの教科が出てきました。次回の教科書改訂は小学校が2020年、中学校が2021年、高校が2022年です。この2020年からの指導要領の改訂は非常に大きな改訂であり、知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」と言われています。
 「指導者用デジタル教科書」は、教科書という言葉がついていますが、実は正しくは教科書ではなく教材の扱いになります。教科書とは、文科省の検定を受けた紙の教科書の事だけでしたが、2018年の法律改正により、2019年度から紙の教科書に代えて使用できることになりました。しかし、これは紙の教科書と完全に同一な内容である必要があり、いろいろな便利な教材が付加されている「指導者用デジタル教科書」は、引き続き教材の位置づけになります。まとめると以下のようになります。

分類位置づけ内容
指導者用デジタル教科書教材先生が電子黒板等で使う
多くの教材やツールが含まれている
学習者用デジタル教科書教科書児童・生徒がタブレット等で使う
紙の教科書と完全に同一の内容
リフローや音声読み上げ等の学習者支援機能保有
デジタル教材教材動画、音声、アニメーション等の教材

デジタル教科書の活用場面とその効果

 デジタル教科書の種類が明確になったところで、それぞれについて活用場面と効果について詳細にみていきましょう。

・指導者用デジタル教科書
 2005年の登場から着実に導入が進み、文科省の調査によりますと小学校および中学校の指導者用デジタル教科書導入率は、すでに約55%以上に達しています。ここでの導入とは学校に1教科が1学年でも入っているという意味ですので、全国の教室の55%以上で使われているわけではありませんが、普及が進んでおり学校で最も使われている教材といえます。世界で最も忙しいといわれている日本の先生にとって、教科書の内容がそのまま大きく電子黒板等に表示される「指導者用デジタル教科書」は、授業準備も効率的にできて大変便利です。また、教科書の内容に沿ったいろいろな写真、音声、動画や教材が使える点も魅力的です。2020年からは英語が小学校でも教科となりますが、英語を専門としてない先生にとって、ネイティブの英語音声を含んだデジタル教科書は重宝なものだと思います。
 使う場面についてはいろいろな本や報告が出ていますが、授業設計に基づいて効果的な場面で使用するというのが共通していると思います。その効果としては、文科省の「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議(第2回)の資料 「デジタル教科書」の現状と課題 に以下のようにまとめられています。

  • ①わかりやすい授業ができる
    ・ 学習情報の共有化(教師の指示や各児童の考えがわかる)
    ・ 話し合い活動の活性化
    ・ 選択、拡大、書き込みによる学習内容の焦点化
    ・ 視覚化、音声化による理解の深まり、広がり
    ⇒特に低位層児童の学力向上に効果あり ② 自由度の高い授業ができる
    ・ 教科書を文や問題、絵、写真、図表に分けて活用できる
    ・ 学年や教科を越えた学習が可能に(学びを縦・横に広げる)
    ⇒学習材としての教科書の活用が促進 ③ 授業準備の効率化ができる
  • デジタル教科書の活用場面とその効果文科省:学びのイノベーション事業より(※1)


・学習者用デジタル教科書
 学習者用デジタル教科書は、小中学校用は前回の学習指導要領改訂である2015年から一部教科書会社から限定的に出てきましたが、この時は教材扱いでした。2019年から法制化され、正式に紙の教科書と同等となり、基本は紙との併用ですが、紙の教科書の代わりとして使用可能になりました。検定を受けた紙の教科書と全く同一の内容である事が求められています。
文科省:デジタル教科書の制度化より(※2)
文科省:デジタル教科書の制度化より(※2)


 学習者用デジタル教科書が法制上も教科書となった事は非常に重要で、例えば紙の教科書は著作権料が抑えられているのに対し、今までデジタルはその対象外であったため、著作権料が非常に高かったり、そのためにデジタル化できない部分があったりしました。指導者用デジタル教科書は、教科によっては著作権料の塊というような話もあります。
 学習者用デジタル教科書は、その名の通り学習者個人用ですから、学習者1人1人が持って操作することが前提となります。それは、従来から行われてきた一斉学習での利用のほか、2020年からの学習指導要領で重要となる「主体的・対話的で深い学び」のための個別学習やグループ効学習においても効果があることが期待されています。この事は文科省の「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」の中の「学習者用デジタル教科書の活用方法の例」(※3)にまとめられています。また、実践的な例としては、東京学芸大学の加藤直樹准教授による「日々の活用から得られたデジタル教科書活用の特徴・効果・留意点」として、同じく文科省の「「デジタル教科書」の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」の資料(※4)としてまとめられています。この中で、学習者用デジタル教科書活用の一番の効果は、とにかく子供たちがアクティブになったと報告されています。そしてその理由としてデジタル教科書の特徴や効果についてまとめられています。
加藤準教授:日々の活用から得られたデジタル教科書活用の特徴・効果・留意点
加藤準教授:日々の活用から得られたデジタル教科書活用の特徴・効果・留意点


 こうした実践の中で重要な点として、学習者がそれぞれの学習の中で書き込みをする事、いわゆる学習記録として残す事があります。この学習記録は、学習者本人が学びを深めたり振り返りとして活用できるほか、先生にとっても授業の理解度がわかったり、さらには将来的にはビックデータ的な解析と活用が期待される今後非常に重要なものとなります。
 このように学習者用デジタル教科書は、2020年からの指導要領の内容を実現する上で、最も重要なものであると言えますが、その活用の前には大きな課題があります。一つは、学習者に1人1台のタブレット等の端末を整備することであり、もう一点は先生がその端末の活用と学習者用デジタル教科書を活用した学びを実践できることです。これらの課題は後ほど述べていきます。
 もう一点、学習者用デジタル教科書の重要な役目として、特別な配慮を必要とする児童生徒等への対応が期待されています。教科書の文字の大きさやフォント、色、背景色等を変える事や、音声読み上げ等により、こうした学習者が効果的に学習可能となることです。

・デジタル教材
 先に述べた加藤先生の学習者用デジタル教科書の実践例は、実は当時の学習者用デジタル教科書であり、2019年からの分類では、学習者用デジタル教科書+学習者用デジタル教材と表すべきものでした。教科書と全く同一(逆に言うと紙の教科書に載ってないものは一切付けられない)教科書に、本来のデジタルの強みである動画、音声、シミュレーション等を加えたものが最も効果的と言えます。
 一口にデジタル教材といっても実に様々で、先の実践例で使ったのは教科書会社が用意した教材ですが、それ以外にも副教材として利用するものや、教材専門会社によるドリル等の教材等非常にたくさんの種類があります。従来の紙の世界ではこれらは独立した別なものでしたが、デジタルの世界では、学習要素ID等で連携させることで、学習者に合わせた教科書教材が連携した新しい学習者用環境が期待されます。

JAPET&CEC:ICTを活用した学習成果の把握・評価に向けた学習要素の分類等に関する調査研究より
JAPET&CEC:ICTを活用した学習成果の把握・評価に向けた学習要素の分類等に関する調査研究より

授業でのデジタル教科書利用例

 次に、実際に授業でのデジタル教科書の取り入れ方の例をご紹介いたします。
デジタル教科書は、大型提示装置(テレビ、プロジェクター、電子黒板等)に投影することで魅力が増大します。
まず、学習している部分をクラス全体に共有しながら進めていくことが可能となります。強調したい部分を拡大表示したり、デジタル教科書に備わっている動画等の素材を使用することで、児童生徒の理解度向上を支援することにつながります。
また、板書時間が削減されます。紙の教科書であれば、教科書の内容を黒板に書き写す必要があったり、授業前に教科書を拡大印刷したりと手間がかかっていたかと思います。
PC端末で表示したデジタル教科書をそのまま投影することにより、板書・授業準備時間の効率化が実現されます。
そして、電子黒板機能を持った大型提示装置であれば、投影したデジタル教科書画面にタッチ操作で解説を書き込むこともできるため、電子黒板との組み合わせで、さらに使いやすくなります。

 次に大型提示装置に投影する方法をご紹介いたします。ここでは、有線/無線で接続する2つの方法をご紹介いたします。

①有線ケーブルをつなぎ投影する方法
 有線で投影する方法はとてもシンプルで、PC端末と大型提示装置を有線ケーブルでつなぐだけです。HDMIケーブルなどのケーブルさえあれば、手元のPC端末を投影することができます。
有線の場合、ケーブル経由で大型提示装置に投影するため、タイムラグが少なく、画面にモザイクが入りにくいことが特徴です。
一方で、ケーブルが届く範囲内で操作しなければならず、先生が教卓に縛られてしまうという現象が起きます。従来の紙の教科書を使った授業のように、机間巡視しながら授業を行うことが難しくなってしまいます。そのため、困っている児童生徒のそばに行くと、授業が一時的に止まってしまうというようなデメリットがあります。

②無線LAN経由で投影する方法
 無線で投影する方法として、無線アクセスポイント経由でPC端末画面を大型提示装置にミラーリングする機能があります。ミラーリングを実現する方法は、以下3つのパターンがあります。
  1. 大型提示装置に搭載しているミラーリング機能を使用
  2. 無線アクセスポイントに搭載しているミラーリング機能を使用
  3. ミラーリング機器を使用

 無線接続のメリットは、無線で接続されていることで、先生が教卓に縛られないことが最大のメリットといえるでしょう。授業進行を止めず、困っている児童生徒に歩み寄れる。そんな授業が実現できます。

デジタル教科書を無線ミラーリングで使用しているお客様の事例はこちら。
https://www.mirai-school.jp/station/column/2252/

無線で画面ミラーリングを実現するためのシステムとして、「みらいスクールステーション」があります。
みらいスクールステーションは、マルチOS(Windows、ChromeOS、iPadOS)の画面ミラーリングに対応しています。GIGAスクール構想で整備された端末のOSすべてに対応しているため、先生・児童生徒でOSが混在しているような学校でもご利用いただけます。
その他にも、大型提示装置を活用し、教材を提示することや、映像と音の校内放送が行えたりと学校生活の様々なシーンで活躍するシステムです。

みらいスクールステーションの詳細はこちら。
https://www.mirai-school.jp/station/ict-education/

デジタル教科書の導入と課題

 このようにこれからの学びで非常に重要となるデジタル教科書ですが、その導入において考慮すべきことがあります。最大の懸案事項は、その前提としてICT環境をきちんと整備しなくてはならない点です。
 まず、整備のSTEPを踏んでいく必要があります。いままで紙の教科書主体であった所に、突然学習者用の端末と学習者用デジタル教科書を導入しても、現場の混乱を招く恐れがあります。やはり、先生が自信をもって指導できる必要がありますし、その前にICT環境に慣れる必要があります。そういう意味では、電子黒板を使った授業から入り、指導者用デジタル教科書を活用し、それから運用を考えてから学習者用デジタル教科書を導入すべきと思います。文科省の推奨のSTEPを意識されるといいと思います。
 また、仮に指導者用デジタル教科書の活用に慣れたとしても、学習者用デジタル教科書の導入では、2つの大きな懸念事項があると思います。
 1点目は、学習者の数だけ端末があるということです。つまり、35人のクラスであれば、35台の端末が必要な時に全て意図通りに動作してくれなければなりません。欧米と違い、日本ではICT支援員の数は非常に限られています。また、たくさん実践を行っている先生の中には、ICTの操作が得意な方がいて一人で全て対応している先生もいますが、これはなかなか難しいことです。これへの解決策の一つは、いつでも端末を変えられる事だと思います。米国では、クラウドが整備され、端末はChromebookが約60%の学校で活用されています。ICT支援員がたくさん入っている米国でも、端末に1台1台ソフトをインストールする活用は、大きく減っています。
もう1点は、ICT環境の問題です。学習者用デジタル教科書は基本的に無線接続ですので、教室内の設備の問題もありますが、もっと厄介なのは学校から教育委員会経由、自治体経由で外へ出るネットワークの帯域が不十分な所が多いということがあります。そのため、最近はSINETの利用の話が出ていますが、こういったことで帯域が十分確保されることを期待したいです。
 ICT環境では、指導者用デジタル教科書でも懸念があります。指導者用デジタル教科書を動かすのは通常Windowsですが、最近のWindowsは非常にアップデートが多く、教室用のPCが使おうとするときにしばらく使えないという事が起こります。この点の解決策の一つとして、手前みそで申し訳ありませんが家電感覚で電源ONで確実につながる「みらいスクールステーション」の利用もあります。

デジタル教科書自体の課題

 デジタル教科書自体にも課題があります。一番の問題は、ユーザインタフェースが各社の使っているビューアによって違うということです。2020年から使用する小学校用のデジタル教科書では、ビューアが6種類存在しています。小学校は基本的には1人の担任の先生が全教科を教えるわけですが、教科によって会社が違うと、先生はそれぞれの操作方法を習得しなければなりません。生徒も同様です。これは大変な負担になると思います。各社それぞれいろいろな思想があってユーザインタフェースを設計しているのですが、現場の苦労を考えると各社が何らかの標準化を行うべきと考えます。最も、本来は各社に任せるだけの事ではなく、何らかの指導やまとめをする所があるべきとも思います。2015年にCoNETSとして教科書会社が13社が集まって共通インタフェースを開発しましたが、2020年からはまたバラバラになりそうです。

まとめ

 以上、本コラムではデジタル教科書の分類とその使う場面、導入について述べてきました。他の機器やソフトでも同じですが、活用の効果やねらいを明確にした上で、ステップを踏みながら着実に活用を図っていく事が大切だと思います。このコラムでは私見も入っていますが、ご参考になれば幸いです。

(※1) 文部科学省: 教育の情報化の推進 > 教育の情報化に関する取組 > 教科指導におけるICT活用 > 実証研究・調査研究 > 学びのイノベーション事業
(※2)文部科学省: 教科書 > デジタル教科書 > 学習者用デジタル教科書の制度化
(※3)「デジタル教科書」の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン検討会議 > 学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン
(※4)文部科学省:「デジタル教科書」の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン検討会議 >「デジタル教科書」の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン検討会議(第2回) 配付資料