ICT教育の9つのメリットとデメリット・運用でつまずく要因と解決策

昭和60年代から学校への学習用パソコンの導入が始まり、平成6年度からパソコンルーム(PC教室)が整備され、現在ではほぼすべての学校にパソコンが導入されています。生徒のデスクに各1台のパソコン、という光景もめずらしくなくなりました。職員室でも教務用パソコンの整備が進んでいます。
文部科学省では、平成26年より各学校およびクラスの授業において、ICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)を用いた取り組みを推進しています。
最近はGIGAスクール構想によって、小中学校では1人1台のパソコンが配布されました。しかし、タブレット、電子黒板、パソコンなどのICTを使うことのメリットは、使う側の教師、生徒、保護者にはどのように認識されているでしょうか。推進する側との認識の差はないのでしょうか。
教育現場では、まだ納得感が持てない方も少なくありません。

教育用コンピュータ1台あたりの
児童生徒数
教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数
普通教室の電子黒板整備率
普通教室の電子黒板整備率
<文部科学省 平成29年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)より引用>

ICT教育の9つのメリット

なぜ社会ではこれだけICTが浸透しているのでしょうか。今やICTがなければ立ちいかない製品、サービスや公的機関はごまんとあり、交通も電力もハンバーガーチェーン店もみなそうです。家庭でもクルマやテレビ、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電の中でICTが機能を動かしています。ICTは今や社会にある組織や家庭でさまざまなことを実現するための基礎であり、人間社会がもてる能力を大幅に拡張しているのです。それでいて加速度的に進化しています。
では学校にICTが入る目的は何か、そしてICTを駆使することでどのようなメリットが生まれるのか。 例えば以下のことが考えられます。

ICT教育の9つのメリット

  • 1 教師が授業で使用する教材の共有、加工、再利用
  • 2 紙の教材では表現が難しい、映像やアニメーションによる視聴覚的な教材表現
  • 3 授業内容を子ども自身が理解できるまで繰り返し学習できる環境の提供(反復学習)
  • 4 子どもの個性や適性、進度に応じた教材と学習環境の提供(学びの個別化)
  • 5 子ども自身で何度も試行錯誤や推敲しやすい環境の提供(創造的活動)
  • 6 ICT基礎スキルの習得(電源入切、キー入力、アプリ起動、保存などのICT基礎を読み書きと
    同様とする考え方)
  • 7 大量の情報から価値ある情報を導き出したり、自分の発想と組合せて新しいものを生み出す力
    の習得(ICT応用スキル、情報スキルの習得)
  • 8 子どもたち自身の経験、学習、学校活動による成果を自分の財産として蓄積・整理・活用する
    スキルの習得
  • 9 教職員の教務・校務の効率化
学校に教育ICTが入る目的とICTを駆使するメリット
学校に教育ICTが入る目的とICTを駆使するメリット
学校に教育ICTが入る目的とICTを駆使するメリット

関連情報

それでは、1つずつ見ていきましょう。



教師が授業で使用する教材の共有、加工、再利用

ICT教育が浸透していくことで、教師が授業のために制作した教材を他の教師と共有したり、それを加工・再利用することで業務効率を高めることができます。

紙の教材では表現が難しい、映像やアニメーションによる視聴覚的な教材表現

紙ではなく、デジタルデバイスだからこそ表現できる動きや音、動画やアニメーションを使った教材作りが可能になります。

授業内容を子ども自身が理解できるまで繰り返し学習できる環境の提供(反復学習)

デジタル化された教材は、デジタル端末とインターネットがあればいつでもデータを引き出して復習することが可能です。

子どもの個性や適性、進度に応じた教材と学習環境の提供(学びの個別化)

ICT教育では、デジタルデバイスを通じて、生徒の個々の学習進捗に合わせた適切な教材を適切なタイミングで提供することができます。

子ども自身で何度も試行錯誤や推敲しやすい環境の提供(創造的活動)

デジタルデータであれば紙とは異なり、簡単に複製したり、推敲の履歴を残すことができます。子供たちは、間違うことを恐れずに、自分で何度も試行錯誤をすることがしやすくなります。

ICT基礎スキルの習得

学習手段として、デジタルデバイスを利用することでICTの基礎スキルも同時に身につけていくことが可能です。

大量の情報から価値ある情報を導き出したり、自分の発想と組合せて新しいものを生み出す力の習得

インターネットも含めて、子供たちが学びを得ることができる情報が無限にあります。普段からそういった環境の中にいることで、自分の発想によって新しいものを創造する力を身につけていくことができます。

子どもたち自身の経験、学習、学校活動による成果を自分の財産として蓄積・整理・活用するスキルの習得

ICT教育の学習環境であれば、子どもたちのデジタル上での活動をデータとして保存しておくことができ、過去の自分が携わったデータを蓄積、整理、活用するといった経験を積むことができます。

教職員の教務・校務の効率化

生徒からの回答データの集計など、デジタルデータであれば効率的に取りまとめる・保存しておくことができます。

ICT教育の9つのデメリット・課題

次に、ICT教育のデメリット・課題を見ていきましょう。

ICT教育の9つのデメリット・課題

  • 1 予算不足で十分な数の学習者用端末を整備できない
  • 2 端末の数が多いと故障などトラブルの頻度や不具合率が上がって対応に手が取られ、
    授業が停滞する
  • 3 授業中に子どもが端末操作に手間取って授業が停滞する
  • 4 端末をカートから出して生徒に配り、起動をさせるのに時間がかかる
  • 5 学習者端末のOSやアプリのアップデートが大変
  • 6 子どもが端末の環境を変えてしまう
  • 7 端末の性能が低すぎてデジタル教科書の動作が遅すぎる
  • 8 WiFi環境の整備が十分ではなく安定しない
  • 9 ネットリスク(インターネットを使うことにより生じるリスク)と遊興に走る心配
教育ICT整備における課題
教育ICT整備における課題
教育ICT整備における課題

それでは、一つずつ見ていきます。

導入したGIGAスクール端末を更新するときの予算不足が心配される

GIGAスクール構想によってすでに全国の公立学校の現場では整備が整っている状況にありますが、5年後くらいに訪れる端末更新費用に国の補助があるのか定かではありません。

端末の数が多いと故障などトラブルの頻度や不具合率が上がって対応に手が取られ、授業が停滞する

端末の数が多くなることで、故障が発生する可能性も高まり、トラブル対応のために授業が停滞する可能性があります。

授業中に子どもが端末操作に手間取って授業が停滞する

子どもがデバイスに慣れず、操作に手間取ってしまうことで、本来受講すべき授業に集中できない状況になる可能性があります。

端末を保管庫から出して生徒に配り、起動をさせるのに時間がかかる

端末を授業の開始時に配布するケースでは、生徒に配って実際にデバイスを起動して授業を受けられる状況にするまでに一定の時間を要してしまいます。

学習者端末のOSやアプリのアップデートが大変

OSやアプリケーションのアップデートがあるたびに、全ての端末のアップデートをする必要があり手間が発生します。

子どもが端末の環境を変えてしまう

子どもが勝手に操作することで、本来の設定とは違う設定に変えてしまうなど、デバイスの環境が変わってしまう可能性があります。

端末の性能が低すぎてデジタル教科書の動作が遅すぎる

デバイスのスペックが低かったり古かったりするとデジタル教科書を閲覧する動作が遅くなってしまう可能性があります。

WiFi環境の整備が十分ではなく安定しない

一度に大量の人数がアクセスしても問題のないWiFi環境を準備しておかないと通信状況によっては端末の動作が安定せず、授業に支障がでる可能性があります。

ネットリスク(インターネットを使うことにより生じるリスク)と遊興に走る心配

インターネットを使って学習とは無関係なサイトを閲覧するなど、遊興に走る子どもが出る可能性があります。

教育ICTの活用でつまずく3つの要因

それでは、次に教育ICTの活用でつまずく要因として以下の3つを紹介します。

・学習者がICTの知見があまりない
・高額な機器と煩雑なメンテナンスの必要性
・アプリケーションの選択肢が多すぎる。

それでは、1つずつ見ていきましょう。

生徒がICTの知見があまりない

生徒にICTの知見があまりない場合、授業を始める以前の準備段階でつまずいてしまい、中々授業を進められなかったり、オンライン上で課題を出したりコミュニケーションをする方法を理解していないために、必要なレスポンスができないという可能性があります。

高額な機器と煩雑なメンテナンスの必要性

ICT教育に十分なインフラを整えるために高額な機器を用意しなければならないだけではなく、端末の物理的な管理やソフトウェア面でのセキュリティ管理などメンテナンスが煩雑になる可能性があります。

アプリケーションの選択肢が多すぎる

デバイスを用意しても、実際にどのアプリケーションを使うべきなのか、選択肢が多すぎて選べない状況に陥る可能性もあります。

ICT教育の課題に対する3つの解決策

ここでは、ICT教育の課題に対する解決策として以下の3つをご紹介します。

子どもたち自身がICT端末に親しんで馴染むようにし、日常で起こるある程度のことは自己解決できるようにさせる

子どもたち自身がICT端末に親しんで馴染むようにし、日常で起こる
ある程度のことは自己解決できるようにさせる

学習者端末はソフト的に軽量な端末を選択する

学習者端末はソフト的に軽量な端末を選択する

授業や提出物での端末による成果物作成は、社会でスタンダードなOfficeアプリケーションをメインに据える

授業や提出物での端末による成果物作成は、社会でスタンダードな
Officeアプリケーションをメインに据える

子どもたち自身である程度自己解決できるようする

学習者が主体で端末を使うなら、学習者自身が端末に馴染み親しんで掌握できるようにし、ある程度の不具合は自己解決できるようにしていくべきです。そうすれば先生方の不具合に対する不安と負荷は大幅に軽減されるはずです。企業や家庭であれば段階的に慣れていくものですが、学校で間欠的に使っているだけでは慣れようもありません。学習者の日常ツールになるべきなのです。ここでICT支援員がいつまでもみなやってくれるようではそれこそ理解は深まりません。

ソフト的に軽量な学習者端末を用意する

デジタル教材の利用、ネット情報の利用、アウトプット・成果物の作成と保存が目的であるのに対し、それらとは直接は関係ないOS更新やセキュリティ対策が求められる近年のICT端末はOSやアプリケーションが必要以上に肥大化し、素人の手に負えなかったり、高スペックで高額なハードウェアが求められたりします。適切な機能のみに絞ることで機器のスペックを下げ、大袈裟なアップデートが利用目的を阻害しないようなコンセプトの機器が望ましいでしょう。

社会で標準的に使われているアプリケーションを選ぶ

学校で端末を使う目的は前述のようにデジタル教材、ネット情報、アウトプット作成ですが、特殊なアプリケーションの経験は使えない環境に変わった瞬間に使えない知識になってしまう場合があります。商業科や工業科など専門分野を除いて、学校の端末で経験したことが学校外や社会に出ても通用するように、Officeドキュメントなどの汎用的なものをメインに使いながら他のものも経験できることが望ましいと考えられます。

まとめ

本記事では、ICT教育のメリット・デメリットについて詳しく解説をしました。未来を担う子どもたちにとって、デジタルデバイスを使いこなすことは重要な能力です。多くのメリットがある一方で、デメリットもあります。ICT教育の課題となりうる事象を理解し、事前に対策を用意しておくことで、ICT教育はより良い学習環境になるでしょう。

子どもに自己解決力をつけるには、学習者端末を子どもの標準ツールにする必要があります。現在でも高校では電子辞書が標準ツールになっていますが、そういった位置付けのものになるべきでしょう。また、学習者端末のソフト的な軽量さも重要です。
学習者端末についてはこのところChromebookがいろんなところで話題になってきており、米国では2017年3月時点ですでに学校の学習者端末の約60%のシェアを持っていることが業界ではよく知られています。
ChromebookはChromeブラウザ以外の機能がほとんどなく、アプリケーションはブラウザ上で動作するG Suite for Educationとインターネット上のWebサイトがすべてですが(Androidアプリも使えますがここでは置いておきます)、Office系機能を含むG Suiteで学校で作成するほとんどのアウトプットには事足りるといえます。

また教材提示用の端末ではありますが、軽量で無駄がないものとしては当社のみらいスクールステーションも同様です。ネットワークを介して電子黒板やデジタルテレビ、プロジェクターに接続し、家庭で使い慣れたリモコンまたは電子黒板のタッチ入力で簡単に操作できるため、インターネット機器の苦手な教員でもすぐに使いこなすことができます。可能な限り不要なOS更新やアプリケーション更新による管理負荷を排除し、電源ON時の起動も高速で授業進行がスムーズに行えるよう配慮されています。
みらいスクールは大型モニターへのリモコンでの教材呼び出しのほか、iPad/iPhoneやWindows端末などの画面転送もでき、教材の提示が非常に簡単です。また、書いたら消す板書と違い、タブレットやディスプレイ(電子黒板)上に書いたものを保存しておくことができるため、見たいときにいつでも資料を呼び出すことが可能。授業だけでなく、緊急時などの校内連絡にも応用できます。

今後、みらいスクール製品はChromebookとの親和性を深めつつ、教材提示機器の枠を超えた製品・サービス展開を進めます。

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